本日の到達目標
- 新規事業開発の4フェーズ(PoC・MVP・グロース・事業拡大)の目的と違いを説明できる。
- 「事実」と「インサイト」の違いを、自分の言葉で説明できる。
- 「もっと速い馬」エピソードの意味を、自分の関心領域に当てはめて語れる。
- 生成AIを「思考の壁打ち相手」として使う具体イメージを持てる。
今日は、座学で学んだ概念が、企業の現場で実際にどう動くかを覗きます。題材は私が関わった国内最大手製薬会社の新規事業開発プロジェクト(親子向け口腔ケアサービス)。新規事業の「地図」、PoCの実態、インサイト発見の難しさ、生成AIが現場でどう使われているかを、リアルな実例で見ていきます。
新規事業は「センス」や「ひらめき」だけのギャンブルではありません。成功確率を上げるための「型」、つまり地図が存在します。それが4つのフェーズです。
実は、Phase 1の前に「Phase 0:事業テーマ設定」が存在します。ここで「課題仮説」と「解決策仮説」を立てます。この段階では「仮説」でOK。仮説を次フェーズで検証していくのです。
例えば、漫画やアニメで大人気のミッキーマウス。彼をテーマにしたテーマパークを作るとしたら、各フェーズで何をするでしょうか。
このように、新規事業は「いきなり満点を狙う」のではなく、「小さく試して、声を聞いて、確信を得てから一気に育てる」プロセスです。
地図は綺麗ですが、リアルな現場でPoCがスムーズに進むことはまずありません。最大の壁は「インサイト探索」です。「本当の悩み」を、どうやって見つけるのか。
ヘンリー・フォードの有名な言葉があります。
「もし顧客に何が欲しいか尋ねたなら、『もっと速い馬が欲しい』と答えるだろう」
顧客は「自分の課題」を「既存の解決策」の延長線上でしか表現できないことが多いのです。「速い馬」は要求(Wants)であり、課題(Needs)ではありません。本当の課題=インサイトは「より速く快適に移動したい」だった。だからこそ「自動車」という破壊的イノベーションが生まれた。
本人すら言語化できていない「隠れた真実」。発見されると「そうそう!これが欲しかった!」と強く共感し、行動を起こす。だからアンケートでは絶対に出てこない。
私たちが直接「観察」できるのは、水面上の「行動」や「発言」だけ。デザイナーの仕事は、水面下に潜って、その行動を引き起こしている「本質的ニーズ=インサイト」を掘り当てる作業です。
事実:Aさん(1歳児の母)は、重いお米や飲料はネットスーパーで定期購入しているが、週に2回は必ずベビーカーを押して実店舗のスーパーにも行く。
「なぜ?」を繰り返す:「重いのになぜ実店舗に?」→「子供が外に出たがる、自分も気分転換」。「ネットスーパーで不満は?」→「便利だけど、買うものがいつも同じ」。観察すると、子供がぐずっても、売り場の新商品や旬の野菜を手に取り「今日はこれ美味しそうだね」と話しかけている。
インサイト:「育児という単調になりがちな日常の中で、社会との接点を持ち、新しい発見を通じて『創造的な自分』であることを実感したい」。彼女にとってスーパーは「作業場」ではなく「小さなレジャーであり、社会と繋がる空間」だった。
Q. ヘンリー・フォードの「もっと速い馬が欲しい」というエピソードが示すことは何か。
では、現場で生成AIはどう使われているのか。私が関わった国内最大手製薬会社の新規事業開発プロジェクト(親子向け口腔ケアサービス)での実例を紹介します。
悩み:「歯磨きストレス」以外の視点が欲しい。
プロンプト例:「以下の表層的な課題の背後にある『深層的な課題』の案をあげよ。表層的な課題:日々の仕上げ磨きが義務的で、親子共にストレスを感じている」
AIの回答(一部抜粋):「親としての『自信のなさ』と『罪悪感』」「子どもの将来に対する『漠然とした不安』」「他人の子供との比較による『焦り』」。
効果:「ストレス(行動)」ではなく「罪悪感」「不安」といった感情こそが本質では?という視点を得た。
悩み:チームの白熱した議論の議事録がカオス。どうまとめる?
AI活用:AIを「優秀なファシリテーター」として使い、ディスカッション内容を分析させ、仮説をリバイス。最初の仮説「親は歯磨きがストレス/解決策:楽しい歯磨きアプリ」が、進化した仮説「親は『後悔したくない(不可逆性への恐怖)』『正解が分からない』という不安/解決策:親子ミッションで罪悪感・不満も解消」へと深化。
悩み:「後悔したくない」を直接聞くわけにはいかない。どう聞けば?
プロンプト例:「以下の仮説を検証するためのインタビュー質問案を30個洗い出して」
さらに「オープンクエスチョンか?/誘導的でないか?/専門用語を使っていないか?/仮説の核心を突いているか?」のチェックリストでAIに磨かせる。
結果:「将来、後悔しそうですか?」(ダメな問い)→「これまでの人生で、『あの時やっておけば良かった』と後悔していることや、逆に親御さんに『これをやらせておいてくれて感謝している』と感じることはありますか?」(最強の問い)へ。
効果:通常なら数日かかるインタビュー設計が、数時間で完成。
AIは「機長(パイロット)」ではありません。AIは私たちの「問い」の質を増幅し、思考の整理を超高速で行う「最強の副操縦士(コ・パイロット)」です。皆さんが機長として「どこへ向かうか(どんな価値を創るか)」という意思を持たなければ、AIは何もできません。
例:「朝の通学が憂鬱」→「なぜ?」→「電車が混む」→「なぜそれが憂鬱?」→「気分が朝から消耗する」→「なぜそれが嫌?」→「1日のクリエイティブな時間を奪われた気がする」→ インサイト:朝の通勤時間を『奪われる時間』ではなく『自分のための時間』に変えたい。
「なぜ?」は責めるニュアンスにならないように。「もう少し詳しく教えて?」「それってどんな感じ?」「どうしてそう感じる?」と言い換えるのも有効。
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